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静岡地方裁判所 昭和63年(ワ)73号 判決

原告

森かね江

被告

名鉄運輸株式会社

主文

一  被告は原告に対し金一〇一万一二四〇円及びこれに対する昭和六三年二月二六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを八分し、その七を原告の、その一を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し金八六〇万円及び内金八〇〇万円に対する昭和六三年二月二六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  昭和五七年七月二日午前一〇時一〇分頃、静岡市稲川一丁目七の二三付近市道上において、原告が自転車で走行中、後方から来た訴外小林章吾運転の普通貨物自動車が右自転車に接触した。

2  被告は、自賠法三条の運行供用者である。

3  原告は、本件事故により腰部・右大腿挫傷、骨盤骨折、右肩打撲傷、外傷性頸肩腕症候群の傷害を受け、右股関節痛、右上肢運動制限、右肩関節痛、右上腕痛等の後遺症を残した。

4  損害は次のとおりである。

(一) 入院雑費 五万七六〇〇円

(一日当たり六〇〇円)

(二) 休業損害 五八〇万二〇〇〇円

原告は、昭和五七年七月二日から昭和六〇年三月八日まで家事労働に従事できず、同年齢女子平均賃金の範囲内である一年当たり二一六万円(一か月当たり一八万円)、合計五八〇万二〇〇〇円の休業損害を受けた。

(三) 逸失利益 三一四万七八〇二円

原告(昭和七年三月三日生)は、昭和六〇年三月九日以降一四年間一四パーセントの労働能力を喪失したから、前記平均賃金を基準にホフマン式により中間利息を控除すると、逸失利益は三一四万七八〇二円を下らない。

(四) 慰藉料 三五〇万円

(五) 損害の填補 六七万七五六〇円

(六) 弁護士費用 六〇万円

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2は認める

2  同3中、腰部・右大腿挫傷、骨盤骨折は認めるが、その余は争う。

3  同3中、(一)入院雑費、(五)損害の填補は認める。右の外、被告の支払つた治療費及び通院交通費のうち本件事故と因果関係の認められるものを超える四四万五〇三八円は損害の填補分と考えるべきである。その余は不知。

三  抗弁

原告が自らの自転車の運転ミスのために普通貨物自動車後部に接触したものであつて、原告の落度は大きい。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠

書証目録及び証人等目録記載のとおり。

理由

一  昭和五七年七月二日午前一〇時一〇分頃、静岡市稲川一丁目七の二三付近市道上において、原告が自転車で走行中、後方から来た小林運転の普通貨物自動車が右自転車に接触したこと、及び被告が自賠法三条の運行供用者であることは、当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第一〇号証、証人小林章吾の証言(一部)によれば、小林は、右道路を南町方面から鐘紡通り方面に向かい進行中、道路左側端寄りを同方向に進行中の原告(当時五〇年)運転の自転車をその右側方から追い抜こうとするに当たり、同所は幅員約四・五メートルの比較的狭い道路であつた上、原告運転の自転車の後輪には補助輪が設けられ、かつ、同人がハンドルをふらつかせて不安定な状態で進行しているのを予め認めていたが、同車の動静を十分注視せず、同車と十分な間隔を保たず、同車との安全を確認しないままその直近右側を時速約二五キロメートルで追い抜き、同車右ハンドル部分に自車左側面部を衝突させたものであることが認められる。小林及び原告には、相手方の車の動静を十分注視せず、十分な間隔を保たず、安全を確認しないまま進行した過失があり、ハンドルをふらつかせて進行し、小林運転の普通貨物自動車左側面部に自車右ハンドル部分を衝突させた原告の過失は小さくない。

被告の責任は明らかであるが、原告の右過失を斟酌すると、損害の半額を負担すべきものとするのが相当である。

二  原告が本件事故により腰部・右大腿挫傷、骨盤骨折の傷害を受けたことは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第五号証、第一一号証、第一四、第一五号証の各一ないし三、証人高部英雄の証言により成立を認める甲第二号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第三、第四号証、同証言、高部外科医院、国立静岡病院に対する各調査嘱託の結果によれば、原告は、本件事故により、高部外科医院において腰部・右大腿挫傷、骨盤骨折の診断を受け、昭和五七年七月二日から同年九月四日まで六五日間同医院に入院したこと、次いで、国立静岡病院において骨盤(右恥骨、坐骨)骨折の診断を受け、同年一〇月一日から同月三〇日まで三〇日間同病院に入院し、その後昭和五九年四月四日まで同病院に一五四日実通院したことが認められる。右甲第一五号証の三によれば、原告は国立静岡病院において右股関節痛の主訴があるが可動域制限はない旨の診断を受けていることが認められる。

(なお、前記甲第一五号証の一ないし三、高部外科医院、国立静岡病院に対する各調査嘱託の結果によれば、原告は昭和五七年八月八日右肩・右肘疼痛を訴え、その後も右肩関節痛を訴えたことが認められるが、証人高部英雄の証言によれば、原告には初診時右肩・右肘に腫れや内出血がなかつたことが認められ、右症状が本件事故に起因するものと認定することはできない。)

三  前記事実関係によれば、損害は次のとおりである。

1  入院雑費 五万七六〇〇円

争いがない。

2  休業損害 一〇八万円

原告は昭和五七年七月二日から同年九月四日まで、次いで、同年一〇月一日から同月三〇日まで入院しており、六か月程度は家事労働に従事できなかつたと認められ、同年齢女子平均賃金の範囲内で六か月分一〇八万円の休業損害を受けたものということができる。

3  逸失利益 五四万円

原告は前記のとおり昭和五九年四月四日まで通院し、成立に争いのない甲第一六号証の一ないし三によれば、原告はその後も右股関節痛等を訴えて静岡済生会病院に三十数日実通院したことが認められ、その間の逸失利益は前記休業損害の半額五四万円を下らないものと推認することができる。

4  慰藉料 一五〇万円

入通院状況に照らし慰藉料は一五〇万円が相当である。

5  損害合計三一七万七六〇〇円につき五割の過失相殺をすると一五八万八八〇〇円となるところ、填補額六七万七五六〇円(被告の支払つた治療費及び通院交通費(甲第一三号証の一ないし二八)が本件事故と因果関係がないことを認めるに足りる証拠はない。)を控除すると九一万一二四〇円となる。

6  弁護士費用 一〇万円

四  請求は、一〇一万一二四〇円の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないから、民訴法八九条、九二条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大前和俊)

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